一箱本棚の私設図書館で地域活性 シェアして広がる本と読者の新たな出会い【続・東海エリア探訪記】

 名鉄・本笠寺駅から笠寺観音(笠覆寺)へとつづく参道に、かさでら図書館はある。最初、市立図書館の分室かなにかと思ったが、それにしてはcasa della bibliotecaというイタリア語が頭についている。「カーサ・デラ・ビブリオテカ」と読むのだが、つまりは「かさでら図書館」だと気づいて膝を打った。
「本を介して人と街がつながる図書館みたいな場所をつくりたいと思ってはじめた私設の図書館です。名前をつけるときにいくつか候補があるなか、〈図書館〉と〈文庫〉が最後まで残り、〈図書館〉にしました。ただ公立の図書館とは区別したいと考え、“カーサ・デラ”で笠寺になると思いついたのです。〈図書館の家〉の意味なので言葉としてはちょっと変ですが、音で選びました」
 と八町順子さんは言う。

「小学生や中学生のころ、休み時間にはいつも図書室にいて、本ばかり読んでいました」と言う八町順子さん(写真提供=かさでら図書館)


 八町さんは2023年2月、坂本直子さんと二人でかさでら図書館をはじめた。最大の特徴は、館内に積み上げられた小さな箱を貸し出し、それぞれのオーナーが好きな本を持ち寄ることで成り立っていることにある。
 大中小の箱とその隙間を合わせて約110あるが、上のほうは脚立でないと手が届かないため、このうち90あまりにオーナーがいて、残りは寄贈された本などを置いている。オーナーの年齢層は小学生から90代までと幅広く、小学生については父親が借り、その子が本を選んでいる。登録すれば本を借りられる仕組みで、登録者数は350人あまりを数えるまでになった。近所の方ばかりか、遠方から通う方もいる。
「一箱本棚」と呼ばれるこの図書館の妙味は、オーナーが90人いたら90通りのまったく異なる選書となり、全体として思いもかけないかたちを生み出すことにある。「一人出版社」や「独立系書店」と呼ばれているところが、中心人物の強い個性で成り立っているのとは対照的だ。
「私と坂本さんだけで選ぶとなると、私は建築関係の本と日本文学が、坂本さんは絵本が多くなると思います。二人ともベストセラーになるような小説はあまり読まないのですが、多くの人が図書館に求めているのは新聞に書評が載る話題の本や、売れている本なんですよね。オーナーのおかげで、そのあたりの偏りがうまく補われています」
 読書会とオーナーの交流会を軸に、毎週のようにイベントが催され、笠寺観音の行事に合わせて古本市なども企画している。集客には波があり、座れきれないほど集まることもあれば、全然来ないこともある。総じて年末年始など世の中が忙しい時期や、夏の暑い盛りは少ないのだそうだ。
 運営を担う八町さんと坂本さんはもとからの知り合いではなく、コロナ禍の2021年に公共財団法人名古屋都市センターがオンラインで開催した計5回の連続講座「本を扉にしてまちに出よう~ホン×マチのあたらしいカタチ~」を受講したのが縁となった。オンラインだったこともあり、受講中に親しくなったわけではないが、しばらくしてから「空き店舗があるので、本屋さんかなにかをやりませんか」と商店街の方に声をかけられたのを機に、言葉を交わすようになる。
「友だちではなかったのがよかったのだと思います。利益を求めているわけではないにしろ、最初からビジネスライクに、本音で話せたからです」
 二人とも自宅から笠寺まで公共交通機関で1時間あまりかかることもあり、話があったときは躊躇したという。それでも観音様の参道にある物件など探したところでそうそう見つかるものでもなく、話に乗ってみることにした。
 同じように門前町として古くから栄えた大須や円頓寺、覚王山の商店街が再活性化を果たしたのにつづけとばかり、シャッター街となっていた笠寺観音商店街でまちづくりの取り組みがはじまったのは2007年ごろにさかのぼる。紆余曲折の末、「シェア」をコンセプトにまず食堂や宿泊施設、コワーキングスペースなどからなる複合施設「かさでらのまちビル」が2020年にできた。かさでら図書館も、元風呂桶屋だった建物に、老舗和菓子屋の御菓子司本松とヒノキのアロマショップHAPPEST LABが同居し、シェアを基本に運営している。

かさでら図書館の様子。一箱一箱がセレクトショップみたいになっていて、それぞれに個性がある。(写真提供=かさでら図書館)


 八町さんは大学職員、坂本さんは店舗の設計や施工が本業で、図書館はあくまで夢の実現と位置づける。赤字にはなっていないものの、生活を成り立たせるほどではない。「一箱本棚」が話題になり、全国で広がりを見せているが、参入する人の数と同じくらい撤退しているのが現実だと言う。
「次世代に受け継いでもらえるよう、ビジネスモデルにしていきたいですね」
「本が売れない」「本が読まれない」と連日ニュースになる一方、名古屋市内外でおこなわれる本に関係するイベントにかさでら図書館として参加するたび、本を求めている人がこんなにもいるのかと驚かされると八町さんは指摘する。

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この記事を書いた人

新聞社、出版社、編集プロダクションを経てフリーランスの記者/編集者として活動。文琳社代表。2006年から2024年までチェコとスロヴァキアに家族で居住し、子どもの成長記録を中日新聞文化面に連載したのち、『プラハのシュタイナー学校』(白水社)としてまとめる。その間、日本滞在中に岐阜と三重の各市町村を回り、「東海エリア探訪記」を中日新聞『アドファイル』に連載。岐阜については『岐阜を歩く』(彩流社)を刊行する。ほかに『不自由な自由 自由な不自由 チェコとスロヴァキアのグラフィック・デザイン』(六耀社)、『イマ イキテル 自閉症兄弟の物語 知ろうとするより、感じてほしい』(明石書店)などの著作がある。

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