自分でつくった作品を自ら手売りする「文学フリマ」と呼ばれる展示即売会が全国8都市で開催され、毎回話題になっている。2002年に東京ではじまり、年を重ねるごとに広がっていったのだが、その影響もあってか、各地の本屋やカフェで同種のイベントが開かれるようになった。
来る9月14日には、「妄想本屋2」と題された展示即売会が名古屋のgallery+cafe blankaで開かれる。「作家と読者がつながるブックイベント」というサブタイトルが付けられているのだが、本屋の減少が全国ニュースになるなか、その“妄想”をしようとしているのが興味深い。参加者の1人であるナツメは、やぐちゆうやさんと山﨑くるみさんからなる短歌のユニットである。
「いまはやはりSNSが強いので、短歌を書き込んだりしているうちに好きな人が集まり、横のつながりができやすいところがあります。今回のイベントもそうして自然と知り合った人が中心です」
と山﨑さんは言う。ナツメ名義でこれまで『あまいうみ』『はがれた鱗』『右肩の天使』の3冊のZINE(ジン)を、また今回「妄想本屋2」を企画するイトウマさんと共同で『ながいうた みじかいうた』を出している。ZINEは少部数で発行される自主制作雑誌を指し、かつて同人誌と呼ばれていたものに近いが、よりパーソナルで自由な発行物になっているところに特徴がある。

「いつも100部くらい刷り、手作りしています。リソグラフのプリントだけ工房に頼み、紙のカットや製本は自分たちでやっています。在庫を抱えるのはたいへんなので、無理をしないようにしています。最初に出したZINEはぜんぶはけました」
山﨑さんによるといま、若い世代で短歌という表現が人気を集めているのだそうだ。山﨑さんも少し前から興味を抱き、阿波野巧也さん(1993- )の『ビギナーズラック』(左右社)や、岡野大嗣さん(1980- )の『たやすみなさい』(書肆侃侃房)などを読むうち、自分でも書きたくなった。映像クリエイターであるやぐちさんとユニットを組むようになったのも、この2冊の共通の読者だったのがきっかけだった。
「若者にとってリアルな言葉で書かれていて、読んでいて共感できるというのがいちばん大きいんです。自分で書くようになったのも、五・七・五・七・七のルールさえ守れば、普段使っている言葉でなにをどう描いてもいい、手軽な表現に思えたからです」
1998年生まれの山﨑さんの綴る短歌には身近なことがモティーフになっていて、日々の暮らしを通じて浮かんだ言葉の泡を呟くような作品が多い。短歌全体が浮かぶことは少なく、断片が次第にかたちになっていくのだという。
「蛍光灯買っておこっか?」ふりむいた君が眩しい愛の電気屋
⚫︎REC ケサランパサラン追いかけるきみはどこへも行かないでね
明け方の道の駅で人知れず焼きついてほしい モルゲンロート
両A面 正義 / また別の正義 地球に針を落とせば
SNSやZINEで作品を発表するほか、小さな布団のような布に文字を刺繍したりといった工夫が興味深い。
「“もふもふ短歌”と名づけています。だれかがやっているのを真似たわけではなく、手芸や裁縫がユニットの相方も好きなので、掛け合わせたらおもしろいのではないかとはじめました。男性ですけどミシンを使うのが得意で、姪っ子に洋服をつくったりしているんです。私は手縫いしかできないのですけどね」

三重県の山間の街に生まれ育ち、東京の音楽専門校に進学。オトノグラムというバンドに参加し、メジャーデビューをめざして活動をするが、21年に活動を休止。三重に戻ったいまでも月に1回くらいのペースでライブハウスのステージに立つ。シンガーソングライターとして曲をつくるなかで、歌詞にならなかったものが短歌として活きることもある。
「上京したときは歌手になりたいと漠然と考え、行けるところまで行ってみようという気持ちでいましたが、いまは嫌いにならないよう、なるべく楽しいことをだけやりたいと思っています」
ユニットを組んだり、共同で即売会を催しても人とぶつかったりすることはなく、周囲で聞いたこともないという。
「ある程度、みんな引いて見ているのはあるかもしれません。それぞれに目標はあるのでしょうが、自分のつくったものを少しでも見てもらえればいいって気持ちの人が多いのではないかと思います」
好きなことを好きなようにやる。だからとってがんばりすぎない。きっとそこから生まれてくるものがある。
gallery+cafe blanka 愛知県名古屋市中区丸の内1-12-3
