日本列島のほぼ真ん中辺りに位置する東海地方は、古くからモノやヒトの往来が盛んで、豊かな自然と過ごしやすい気候に恵まれていることもあり、野菜づくりが盛んな地でした。
そんな東海地方には、数々の伝統野菜が地産地消されており、野菜本来の「旬」や食文化を教えてくれる貴重な存在として親しまれています。

名前の由来は岐阜県本巣市「真桑」地区
「まくわうり」は古くから甘いウリの総称だった!?
現代のように冷たいジュースや氷菓のない時代の盛夏、人々の身体と心の渇きを潤した青果の代表格は、水分が多く甘みのあるウリでした。
西アフリカやインドなど、様々な起源説があるウリですが、日本へは、中国経由でかなり古い時代に渡来していたようです。
1200年以上前の和歌集『万葉集』では山上憶良が「旅先でウリを食べると子どもの顔が思い出される…」と歌い、室町時代~江戸時代の職掌日記『御湯殿上日記』には織田信長が計7回「真桑(まくわ)と申す名所の瓜(うり)」を朝廷に献上したという記述があるそうです。
信長が献上した「真桑の瓜」が高品質だったため、次第に、甘く質の良いウリ全般を「まくわうり」と呼ぶようになったと考えられているようです。
そんな「まくわうり」は岐阜県の「飛騨・美濃伝統野菜」として認証を受け、生産・販売が振興が図られています。

「まくわうり」は、古くから真桑地区で作り続けられている原種であるため、品種改良された様々な青果に慣れている現代の私たちには、甘さが控えめに感じられるといわれます。
そこで「まくわうり」と、まくわうりを元に改良された品種の「黄石(こうせき)うり」を食べ比べてみることにしました。
写真の「まくわうり」は長さ12.5センチ、一番太いところの幅6.5センチ、重さ400グラム。
黄石うりは長さ11.5センチ、一番太いところの幅8.5センチ、重さ450グラムでした。

左の黄石うりには短い果柄があるのに対して、右の「まくわうり」には果柄が無く、放射状に伸びた10本の筋があるのがわかりますね。
いずれも「まくわうり」の特徴なのですが、果柄がないのは、完熟したらツルの付け根から実が落ちるためで、収穫時には、ハサミで切り取るのではなく、落ちた果実を拾うのだそうです。
写真からは伝わりませんが、香りの強さも全然違います。
「まくわうり」からは、数メートル離れていても爽やかで甘い香りが漂ってきますが、黄石うりの方は鼻を近づけてやっとほのかに香る程度でした(個体差もあるかもしれません)。

まず上下を切り落として、皮をむき、縦に2つに切ります。
種を取り除いたらさらに縦に切り、食べやすい幅で横に切り分けます。
見比べてみると「果肉の色が違う」というのが第一印象。
また、切る時ににじみ出てくる果汁の量は「まくわうり」の方が断然多いです。
味わってみると、「まくわうり」はジューシーでほどよい甘みがありました。
一方、黄石うりは甘みが強い上に、サクサクと食べやすく「これが品種改良された味かあ」と納得しました。
どちらが美味しいと感じるかは、個人の好みということでいいと思います。
自分はフルーツの甘みはほどほどが好きなので、「まくわうり」の方が合っている気がしました。
夏の食卓に、爽やかな香りと甘みを
日本食品標準成分表によると「まくわうり」は水分が90.8%で、可食部100グラム当たりのエネルギーは34キロカロリー。
目立った栄養成分としては、高血圧に効果があるとされるカリウムが280ミリグラム、抗酸化作用があるとされるビタミンCが50ミリグラム、正常な細胞の増殖を助ける働きがあるとされる葉酸が50マイクログラム。
単糖当量は7.6グラム(果糖は1.7グラム、ブドウ糖は1.4グラム)です。
適度な甘みがあるのに低カロリーで、健康に良い成分が(意外と!)豊富な「まくわうり」。
デザートとしてそのまま食べるだけでなく、様々な食材と組み合わせて、食事のメニューにも加えてみませんか。
以下に、生のまま食事メニューにもなる料理をご紹介します。

メロンを思わせる果肉の色とジューシーさから、生ハムと合わせたら美味しそうだと思い、試してみました。
食べやすく切ったまくわうりに、ほどよいサイズに切った生ハムを巻き、お好みで黒コショウを振りかけます。
生ハムの塩気と、ジューシーな「まくわうり」のほどよい甘さがよくマッチし、黒コショウの香りが全体を引き締めてくれて、食前酒のお供や箸休めにお薦めです。
イタリアンがお好きな方は、バルサミコ酢やオリーブオイルをかけても美味しいと思います。
※本巣市内の産直店で「まくわうり」は150円~300円で販売しており(2025年7月22日時点/サイズによって50円刻みで価格設定)、メロンよりお手ごろなので、コスパ面でも推せます!

産直店で「まくわうり」を買ったときに、店頭でいただいたパンフレット(岐阜農林高校「まくわうりひろめ隊」作成)で紹介されていたレシピを参考にして、暑いときでも食べやすそうな生春巻きを作ってみました。
乾燥した生春巻きの皮をぬるま湯に通してやわらかく戻し、レタスやタマネギの薄切り、ムキエビなどと一緒に「まくわうり」の細切りを巻くだけです。
味付けは完全にお好みで、巻く前に具材にタレを付けて巻いてもいいし、具材には味付けせずに、生春巻きにタレを付けて食べてもいいようです。
今回は、マヨネーズと味噌、ラー油、しょうゆ、おろしニンニクを混ぜ合わせたタレを具材に付けてから巻いて食べました。
実は生春巻きを作るのは初めてでしたが、思ったより手軽にできてうれしかったです。
具材に甘みのある「まくわうり」が入っていることで、味がまろやかになっているように感じました。

こちらも、生春巻きと同じく、産直店のパンフレットに紹介されていたレシピを参考に作ってみました。
大きなボウルに、(切り分けたときやタネをとるときに出る)「まくわうり」の果汁とオリーブオイル、塩、乾燥バジル、レモン汁を合わせてソースを作り、一口大に切った「まくわうり」の果実と、縦4つに切ったミニトマト、細切りにして炒めておいたベーコンを混ぜ合わせたら、ゆでて冷水で冷やしたパスタを加えてざっくりと合わせたら出来上がりです(各具材の分量はお好みで)。
さっぱりとしたレモンベースのソースに、ベーコンのコクと「まくわうり」の爽やかな甘みがよく合って、美味しく食べられました。
現在は岐阜県本巣市の「まくわうり栽培研究会」とJAぎふの特例子会社が協力しながら生産・規模拡大に取り組んでいて、収穫された「まくわうり」の多くが同市内にある産直施設「おんさい広場真正(しんじょう)」で買うことができます。
収穫時期は7月下旬~8月上旬で、購入できる期間は短いですが、独特の甘い香りとさっぱりジューシーな味わいを求めて、県内外から人が訪れるそうですよ。
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