「ほっ」とスポット【日本の歴史公園100選「豊橋公園」(愛知県豊橋市今橋町)】~地域の中心地として歴史を刻み続け、見ごとな石垣と緑を堪能できる公園~

東海地方には、文化や歴史、自然の息吹や時の流れを感じることができる場所が数多く存在します。そんな、ひととき日常から離れて「ほっ」とできるスポットを紹介していきます。
今回は、続日本百名城にも選定されている「吉田城」を中心に整備された「豊橋公園」(愛知県豊橋市)を取り上げます。

「豊橋公園」案内図
※本記事掲載の写真は、国立国会図書館デジタルコレクションの浮世絵以外、全て2024年10月14日撮影

城下町、宿場町、湊町(みなとまち)、軍用地…
歴史上さまざまな役割を担ってきた場所に整備された緑豊かな公園

愛知県の東南部に横たわる渥美半島の付け根に位置し、東は静岡県と接する豊橋市。
市域の北部を東西に一級河川「豊川(とよがわ)」が流れ、古くから東日本と西日本の間に挟まれた東三河地方の要として栄えてきました。
豊川のほとり、豊橋平野を一望する台地に1505年(1496年説もあり)築かれたのが吉田城(築城時の名称は今橋城)です。
1565年(永禄8)に松平(徳川)家康によって攻略されるまで、今川・武田・松平(徳川)といった戦国大名による激しい争奪戦が繰り広げられたといいます。

吉田城の周囲は湊町や城下町として、また東海道の宿場町(吉田宿)として栄え、近現代には陸軍施設が置かれたり、政治の中心地ともなりました。
そんな吉田城を中心として1949年に整備されたのが豊橋公園(約22万平方メートル)で、「日本の歴史公園100選」にも選定されています。

吉田城の三の丸門跡にある公園入り口

吉田城址には1884年(明治17年)から第二次世界大戦が終結した1945年(昭和20)まで、陸軍用地として歩兵第十八連隊が置かれたため、遺構がいくつか残っています。
左右の門柱と、左手にあるコンクリート製の歩哨(ほしょう=見張り詰所)は、昭和10年代に改築されたものと伝わっています(それ以前は木製、レンガ製)。
戦後は三の丸(豊橋公園西)に市役所庁舎が置かれました。

吉田城址の案内板

豊橋公園の西半分を占める吉田城址の歴史と案内図をわかりやすく解説してあります。
※東半分には野球場などのスポーツ施設が点在していましたが、現在は多目的屋内施設の新設などに向けてリニューアル工事中で、オープンは2027年度の予定。工事期間中も、西エリアは問題なく散策できます。

花壇越しに見た豊橋市美術博物館

駐車場近くにある美術博物館は、常設展(1階の美術コレクション展示と2階の豊橋の歴史資料展示)の観覧が無料で、気軽に入れる施設です。
今年(2024年)3月にリニューアルオープンしたばかりで、館内にはカフェやキッズスペース、ラウンジもあってくつろげる空間になっています。
公園や吉田城の詳しいパンフレットも置いてありますので、散策前にはまずここに立ち寄ることをお薦めします。
それぞれのパンフレットには、園内の名木や巨木、刻印のある石垣はどこにあるかなど、見どころがわかりやすく記されているので、かなり重宝しますよ。
※館内では吉田城の御城印も販売しているそうです。

巨木も多い園内の木々

数千本の樹木が立ち並んでいるという園内ですが、特にマツやケヤキが多い印象で、それぞれ300本以上ずつあるとのこと。
巨木も多く、市が選定した「とよはしの巨木・名木100選」のうち、約1割にあたる9本が豊橋公園にあります。
公園緑地課の職員のお話によると、豊川のほとりにあるため木が育ちやすく、特にマツに関しては、地域で積極的に保守されてきたのだそうです。

テーマ花壇と花時計

樹木の多い園内ですが、入り口近くにはこのような花をテーマにした一角も。
手前は、2020年にNHKで放送された連続テレビ小説「エール」の撮影地となったことを記念して作られた花のステージ(テーマ花壇)で、右奥は花時計です。

三の丸会館

木々に隠れてしまっていますが、建屋はL字型に展開していて、左奥の建物には立礼式の茶席があり、飛び込みで訪れてもお抹茶(和菓子付き)を楽しめるようになっています。
その右手には本格的な茶室があり、各種会合用に貸し出しを受け付けているそうです(要事前申請)。

目次

安土桃山時代や江戸時代の石垣を間近に見られる貴重な空間

ここからは、吉田城址を紹介していこうと思います。

廣重 画『東海道五十三次』2,[古吾妻錦繪保存會],[18–].
国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/1911036

江戸時代、東海道の大河川で橋が架けられていたのは、豊川の豊川橋と、矢作川(岡崎)の矢作橋、琵琶湖の瀬田唐橋(せたのからはし)の3カ所のみだったといいます。
城が川に隣接しているという立地から、絵になる風景として、吉田城と吉田橋はセットで描かれることが多かったようです。
上の吉田宿の浮世絵には、左官職人が天守閣(櫓?)の壁の補修をしている様子や、とび職人が足場の上部から豊川橋の方向を見渡している様子が描かれています。

南多門(みなみたもん)跡から本丸広場(北方向)を望む

本丸を中心に、門の周辺など、城内の要所に築かれたという石垣も、安土桃山時代や江戸時代のものが残っています。
1615年(慶長20)に完成した名古屋城の残石を活用した部分もあるといわれ、現在までに約60カ所で刻印のある石が見つかっているそうですよ。
吉田城のパンフレットを見ながら刻印石を探してみるのも楽しそうです。

地域の要であった吉田城は、周辺の有力武将によって幾度となく争奪戦が行われ、拡張や整備が重ねられました。
特に、1590年(天正18)に15万2千石という大身で城主となった池田輝政の功績は大きく、吉田城を自身の石高に相応しい大城郭へと改修したのだそうです(吉田城址は東西約1400メートル、南北約600メートルという、全国でも10指に入る巨大城郭)。
池田輝政といえば、関ヶ原合戦(1600年)後、播磨へ転封となり、姫路城を現在の優美な姿に大改修した城づくりの名手としても知られています。

本丸広場の周りに巡らされた石垣

本丸御殿があったとされる場所は今は「本丸広場」と呼ばれる芝生広場になっていて、その周囲には石垣がぐるりと巡らされています。
上の写真は、本丸広場から見た南東の方角で、辰巳櫓があったとされるところです。

石垣の合間にある階段のような部分

歩いて上るには急だし、階段というにはステップの部分が狭すぎて足を乗せられないので、何のための斜面なのか不思議な部分。

鉄櫓(くろがねやぐら)

鉄櫓は1854年の安政東海地震の被害によって半壊し、解体されたそうで、現在見られる鉄櫓は、1954年(昭和29)開催された豊橋産業文化博覧会のパビリオン(展望台)として復元建設された4階建ての鉄筋コンクリートづくりです(エレベーターはありません)。
「天守閣」を持たない城とされる吉田城の古絵図は現在までに約70点確認されていますが、城内に9つあった櫓のうち、鉄櫓の位置に「天守」と記されているものが数点存在するため、鉄櫓が実質的な天守の役割を果たしていたと推察されているのだそうです。

鉄櫓の脇に生えているイスノキ(マンサク科イスノキ属)

常緑の広葉樹で、推定樹齢300年以上、高さは15.8メートル、幹周は3.6メートルとのこと。
土塁の上に植わっているため、見ごとな根張り具合がよくわかります。
「とよはしの巨木・名木」100選の一つです。

鉄櫓の北面を支える、池田輝政が城主時代に築かれた石垣

安土桃山時代の石垣としては、東海地方屈指の規模(高さ約12.7メートル)とのこと。
江戸時代の大地震(宝永、安政)によって、敷地内の多くの櫓や石垣が崩壊したそうですが、池田輝政が当時の最新技術で築造したこの石垣は崩れることなく残っているのだそうです。

池田輝政の時代の石垣と確認された裏門下の石垣

この裏門下の石垣も、最近の調査で池田輝政の城主時代に築造されたものだと判明したそうですが、江戸時代に部分的に修復されているそうです。

鉄櫓の入り口

鉄櫓は1階が案内所、2階が「吉田城の歴史」展示室、3階が「城下町宿場町湊町」展示室、4階が「浮世絵で描く吉田」展示室となっています。
開館時間(本編末尾に記載)内は、自由に出入りできます。

鉄櫓2階「吉田城の歴史」展示室

時代ごとの絵図や、城郭の全貌がわかるジオラマ、鎧兜(よろいかぶと)などの展示があり、かなり見応えがあります。

鉄櫓4階「浮世絵で描く吉田」展示室

3階からの階段を登って振り向くと、池田輝政の顔ハメパネルが!
なかなか面白い趣向ですね。
四方に窓があるので、全方位を見下ろせます。

鉄櫓3階の北面から見た豊川

右手(東)から流れ込んでくる朝倉川との合流地点にあたります。
浮世絵に描かれた豊川橋は左手方向にあったとされます。

鉄櫓の北東に周り、西方向を見たところ

鉄櫓の北東は見晴台のようになっており、「武具庫跡」という碑が立っています。
右手の向こう側に見えるのが現在の豊川大橋(昔の東海道にあたる国道1号)です。

※城内の石垣は、豊橋市文化財センターによって継続的に調査と修復が行なわれているそうです。現在は鉄櫓の東側にある入道櫓跡〜北多門跡が修復工事(2025年2月末までの予定)中で、囲いがしてあります。

豊川のほとり。
400年以上前に築造された石垣や土塁、樹齢300年以上の木々が、中世から近世、近代、現代へと、人と共に刻んできた歴史を無言で語ってくれる空間。
それが吉田城址を中心とする豊橋公園なのだなあと、散策しながらしみじみと感じ入りました。
日常を離れ「ホッ」とするために、何度でも訪れたい場所です。

■豊橋公園(とよはしこうえん) ※入園自由
〈1949年開園/日本の歴史公園100選〉
・住所:愛知県豊橋市今橋町3
・TEL:0532-51-2650(豊橋市都市計画部公園緑地課)
・鉄櫓:午前10時〜午後3時開館
 休館日は毎週月曜と年末年始(月曜が祝日の場合は開館、代替休館なし)
 入館無料
・美術博物館:午前9時〜午後5時開館
 休館日は毎週月曜と年末年始(月曜が祝日の場合は開館、翌日休館)
 一般ギャラリーとコレクション展示の観覧は無料
 企画展の観覧料は催しごとに設定
 問い合わせTEL:0532-51-2882
・三の丸会館:午前9時〜午後5時開館
 立礼茶席は午前10時〜午後4時(一服550円)
 休館日は第3月曜と年末年始(月曜が祝日の場合は開館、翌日休館)
 問い合わせTEL:0532-56-6022
・無料駐車場あり

※掲載情報は公開日時点のものとなります。

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この記事を書いた人

名古屋生まれ、名古屋育ち。
季節の移り変わりを観察するのが大好きなアラフィフ世代。新聞記事制作や、出版社にてガイド本等の制作経験あり。
現在は、旅や町ネタに関する記事を執筆しています。観光や販促のお手伝いも。

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