東海さすらい旅日記【岐阜県高山市】冬の飛騨高山② 静寂の朝、賑わいの昼

 前夜は12時過ぎにチェックイン。お待ちしてましたとばかりにフロントマンの笑顔。その日、最後の客だったのかも知れない。小一時間、町を歩いたせいか体は冷えていた。エアコンの暖気が気持ちよく、そのままベッドで眠りについた。

 翌朝、夜が明けてから目を覚ました。旅先、特に古い町並みがある町では、夜明け前からよく町歩きをする。この高山でも何度、その時間に歩いただろう。夏も冬もその人のいない朝の町の姿が好きだ。夜明け時間は逃したが、7時前にホテルを出た。荷物は置いたまま、シャワーは町を歩いてから浴びよう。

 雪が少し残っていたが、ざくざくというより、サクサクといった感じ。滑り止めのゴムバンドはいらなかったかも知れない。そういえばこのゴムバンドも何年か前に高山で買ったものだ。人のまったく歩いていない古い町並みは、期待通りの好きな姿だった。あんなにも昼には人が歩いているのに、ゴミがまったく落ちていない。それは日本の観光の奇跡だとも思う。もちろん、町筋の人たちが朝早くから掃き掃除をしているのは知っている。それでも、この町の美しさはいつも感嘆する。高山名物の赤い橋も、そこだけ温かいのか、雪溶けのマンホールのデザインも美しい。朝飯は、コンビニの外のベンチ。温めてもらったおにぎりと緑茶がうまい。

 古い町を抜け、東山寺院群へ。京都の東山を模したという寺社が集積する辺りまで歩く。寺の屋根に積もる雪の姿、遠景に見える山の姿、寺から見下ろす町の姿がいい。昭和レトロなカレーの看板。古い町並みから少し離れると生活感あふれる暮らしの風景が見える。

 寺院群を抜け、八幡宮から屋台会館、朝市へ。気づけば、ホテルを出て2時間以上歩いていた。9時をまわると町には外国人観光客が徐々に増えてきていた。宮川朝市のスイーツ屋や飛騨牛寿司は外国人の大行列。本来はそんな朝市じゃなくて、お店のおばちゃんやおじちゃんたちと触れ合いながら農産物やつけものなどを買うところなのに。焼き芋屋のお兄さんには、「Hi !」と声を掛けられる。「外国人に見えました?」「いや、もうわかんなくて」と笑い合った。

 ひととおり町を歩いてホテルに戻り、シャワーを浴びてぎりぎりの10時にチェックアウト。その後、今回の高山旅での大切なことが待っていた。高山とのご縁をいただいた恩人とレトロな古民家カフェで待ち合わせ。予定していた1時間はあっという間に過ぎ、再会を誓う。

 カフェを出ると、雪雲で灰色だった空は冬の青空に変わっていた。この町は何度も歩いているが、こんなにも力強い青空を感じたことはない。酒蔵をめぐり、大衆食堂でほうば味噌を食べている間に、いつの間にか古い町並みには人があふれ、初詣の神社ばりのにぎわいになっていた。旅を楽しみ、幸せそうな外国人たち。オーバーなんとかとか言う人もいるけれど、観光地にとって大賑わいは大歓迎。そう思いながら、駅へ向かう。

 僕が作った看板マップを見ている外国人観光客。地域に残る仕事に誇りを感じる瞬間。そんな嬉しさを胸に朝の光に輝く高山駅に着いた。
 お昼過ぎのバスセンターは、大きなスーツケースを持った外国人たちでごった返していた。そんな外国人たちにまざって、白川郷経由金沢行きの高速バスに乗り込んだ。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

愛知県豊橋市生まれ。
出版社、シンクタンク勤務を経て、現在は一般社団法人ほの国東三河観光ビューローのマーケティングディレクター。旅人総研代表。愛知大学地域政策学部非常勤講師(観光まちづくり論)。
東海地方を中心に、地域を盛り上げる観光事業や集客計画など、手がけてきたプロジェクトは数知れず。生まれ育った愛知県東三河に腰を据え、地元活性のために奔走する。また、旅人総研代表として、講演やフォトラベライター(旅するカメラマンライター)などの個人活動も実施。旅と写真とロックを愛する仕事人で、公私ともに、さすらいの旅人として各地を巡っている。

目次