かつて、市街地の急速な発展によって「白い街」とも呼ばれた名古屋ですが、道路整備に合わせて街路樹の植栽に注力し、今では、市域における街路樹密度が全国の大都市でトップクラスにまでなりました。
2021年からは、街路樹の大木化や老朽化といった課題を解決し整備を進める「街路樹再生なごやプラン」も始まり、道路空間と調和した街路樹づくりが進められています。
「名古屋の街路樹」では、名古屋市内の、街路樹と街並みが調和した特徴的な風景を取り上げ、その魅力をご紹介していきます。

繁華街・栄の東を縦断するムクゲの並木道
6月下旬から9月にかけての暑い時期に、次から次へと可れんな花を咲かせる花の一つに、ムクゲがあります。
名古屋の街路樹としては、比較的数が少ない樹種なのですが、繁華街・栄の一角に、少しまとまって植栽されている道があります。
久屋大通のすぐ東を南北に走る「武平通」の「堀留」交差点から「中区役所」交差点までの約0.8キロです。
今回はそちらを歩いてきましたので、ご紹介したいと思います。
※本記事中の写真は全て2026年7月10日に撮影したものです。

「堀留」交差点は、東西に走る「若宮大通」の矢場町交差点と丸田町交差点の中間にあり、「武平通」の南端に当たります。
ムクゲの道は、ここから「中区役所」交差点までの1キロ弱。
南から北へ向かう一方通行の武平通は、沿道にビルが建ち並ぶ都会の道ではありますが、道の両側に自転車専用ゾーンもあって、人や自転車が通行しやすい道です。

歩道にポツンポツンと植えられたムクゲの木が、花を咲かせている様子です。
伐採された跡や、実生の若い木も見受けられたため、正確ではありませんが、沿道のムクゲは、ざっと数えて20数本。
開花期には華やかな雰囲気をまとう樹種なので、一帯を散策していると、こちらまで明るい気分になってきます。

底赤(そこあか)というのは、花びらの付け根の部分が赤く染めたような色になっている状態をいいます。
ムクゲと聞くと、この色(白地に底赤)の花を真っ先に思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
ムクゲには多くの園芸品種がありますが、この花色は、千利休の孫で茶人の千宗旦(せんのそうたん/1578〜1659年)が好んだそうで、現代でも「宗旦」という呼び名で親しまれています。

桃色地に底赤の花も咲いていました。
国内で一般的に見られるムクゲの花は、白からピンク(濃淡)、赤、紫まで色のバリエーションがありますが、これぐらい淡い桃色の花は少し珍しい気がして、思わずシャッターを切ってしまいました。
夏らしい青空に、よく茂った深緑色の葉と、パッパッと咲いた、可れんな花がよく映えています。

のびのびと咲いた真っ白な花。
陽光を受けて輝く花びらを見ているだけで、清々しい気持ちにさせられます。

ムクゲの花は、早朝に開花して、その日の夕方にしぼんでしまう「一日花」。
次から次へとつぼみが出て、咲いていくので、暑い時期、約3カ月に及ぶ長い間ずっと咲いているように感じますが、一つひとつの花の命は1日ととても短いのです。
ムクゲの原産地は中国を中心とした東アジアとされ、日本へ渡来した時期は不詳ですが、平安時代の書物に記録が残っているそうです。
江戸時代には品種改良や栽培が盛んだったようで、松尾芭蕉や小林一茶も俳句を残しています。
中でも小林一茶の「それがしも 其(そ)の日暮らしぞ 花木槿(はなむくげ)」という俳句には、「ムクゲも自分もその日暮らし」と嘆いているようで、開き直ったような、したたかな明るさも感じられて、「大変なこともあるけど、1日、1日、頑張ろう」と勇気づけられる気がします。
たおやかなムクゲの花をクローズアップ

ムクゲは基本的に一重咲きで、花びらが5枚のものが多いそうです。
よく見てみると、同じような色の花でも、色合いが微妙に違っていたり、ピンク色の花で、オシベが花弁化する現象が多く見られたのが面白かったです。

同じような花色でも、花びらの形や雰囲気が違って見えるものも。
もしかしたら品種が違うのかもしれません。

大人の女性のこぶしを花の真横に置いて、同じような角度と距離感で撮影して、花によるサイズの違いを比べてみました。
それぞれ単独でみると同じような大きさのように感じていましたが、こうして並べてみると、品種(?)によって花のサイズが違うことがわかります。
一般にムクゲの花のサイズは、直径5〜10センチぐらいとされていますが、上の写真では、左の白地に底赤の花が直径12センチぐらい、右のピンクの花が直径6センチぐらいあるようです。

葉っぱの付け根からつぼみが次々と出てきているのがよくわかります。
現時点で花が全く咲いていない株で、緑色のつぼみがたくさん付いているものもありました。
「こんなに暑いのに」と、その生命力に感心してしまいます。

花が終わると、きれいに花びらを折りたたんで、そのままポトリと落下するようです。
周辺に紫色の花はなく、すぐ近くの樹上で咲いている花はピンク色だったので、ピンク色の花はしぼむと紫色に変色するようですね。

左上から時計回りに、キンシバイ、ツユクサ、ヤブヘビイチゴ(実、花)。
※いずれも推定です。
こんな都会の真ん中で、意外にも信号機のように鮮やかな色合いの花たちが見られました(赤い「実」も含んでいますが)。
今回ご紹介したムクゲの並木道「武平通」は、江戸時代初期に名古屋の町割りを担当した松井武兵衛という普請奉行(ふしんぶぎょう)がこの辺りに住んでいたことがその名称の由来と伝えられています。
一方通行で、あまり広くない道ではありますが、由緒もあり、散策が楽しい道でした。
ムクゲの開花時期は9月ごろまで続くので、今シーズン中にまた訪れてみたいと思っています。
※掲載情報は公開日時点のものとなります
