日本列島のほぼ真ん中辺りに位置する東海地方は、古くからモノやヒトの往来が盛んで、豊かな自然と過ごしやすい気候に恵まれていることもあり、野菜づくりが盛んな地でした。
そんな東海地方には、数々の伝統野菜が地産地消されており、野菜本来の「旬」や食文化を教えてくれる貴重な存在として親しまれています。

「菜の花」とは別物 花芽をつける前のアブラナの茎葉を食用とする野菜
寒い日が続きますが、少しずつ日が長くなってきて、季節が春に向かっていることを実感する日々です。
今回は、この時期に旬を迎え、春を連想させる緑黄色野菜「三重なばな」を取り上げます。
「なばな」とは、アブラナの葉の付け根から出る長さ20センチほどの脇芽のことで、令和4年(2022年)の出荷量は三重県が全国1位を誇ります(農林水産省統計)。
その発祥は、江戸時代に伊勢北部で盛んだった菜種(アブラナ)栽培(「江戸の灯りは伊勢の菜種でもつ」ともいわれたほどだったそうです)。
「なばな」は、昭和30年代ごろにアブラナの実の収穫量を増やす目的で行っていた「摘心」(茎の先をカットして脇芽の成長を促す)の副産物といいます。
はじめは栽培農家で「摘み菜」として自家消費していたそうですが、あまりに美味しいので近くの市場に出荷したところ、口コミで評判が広がり、昭和40年代からは出荷規格を定めて「なばな」と命名し、共同販売が始まったのだそうです。
平成元年(1989年)には「三重なばなブランド化推進協議会」が発足し、平成18年(2006年)度には「美し国みえの伝統野菜」に選定されました。
収穫時期は11月〜3月とされていますが、最近では晩生種の開発も進み、4月下旬まで収穫期が延びているそうです。

「全長が15〜20センチ」、「当日収穫した新鮮で色の濃いもの」、「7本、160g以上」、「虫食いがない」など、厳しい規格や荷造りルールを経て出荷された「三重なばな」は、ほれぼれする美しさです。

中心部分を見ると、花芽が付いていません。
花芽を食べるために販売される「菜の花」とは違うことがわかります。
栄養豊富で火の通りが早い! シャクシャクとした軽い食感と自然な甘みが魅力
「なばな」は、βカロテンが豊富で、食物繊維やミネラルを多く含む緑黄色野菜。
また、止血と骨の健康に作用する「ビタミンK」や、皮膚や粘膜の健康維持を助け抗酸化作用を持つ「ビタミンC」、DNAやアミノ酸の合成に関わる補酵素である「葉酸」のほか、「グルタミン酸」や「アスパラギン酸」といったアミノ酸類をバランス良く含むので、健康のためにも積極的に摂取したい野菜でもあります。
ここからは「三重なばな」を手軽に美味しく食べられるお薦め料理をピックアップしてご紹介していきたいと思います(ほとんどが、インターネットなどに公開されているレシピにアレンジを加えたものや、昔から実家で食べていた料理です)。

まずは一番シンプルにおひたしを。
塩を加え沸騰させたお湯でサッとゆでて、麺つゆをかけるだけ。
けずり節を振りかけたり、麺つゆにさとうとカラシを混ぜて和えたカラシ和えにしても美味しいです。

天ぷらは今回初めて作ったのですが、とても美味しかったので、かなりお薦めです。
1)ボウル(または調理用トレー)に小麦粉と片栗粉を10:1ぐらいの割合で入れ、塩少々と冷水を適量(様子を見ながら)加えて、ダマができないよう混ぜます(少しぽってりしているぐらいが良いようです)。
2)フライパンや鍋に油を適量入れて加熱します。
3)洗っておいた三重なばなの中心部分の葉(3〜4枚)に衣をまとわせ、弱めの中火で揚げます。
衣に若干塩味が付いているので、ほんのりとしたなばなの甘さが引き立ちます。
※今回は油の使用量を少なくするために、フライパンに約1センチの油で揚げ焼きしました。
※三重なばな自体は火の通りが早いので、箸で触って衣がカラッとしたら油から取り出します。

副菜としてちょうど良い存在感の油揚げ巻き煮です。
1)三重なばなを巻きやすくするためにサッとお湯をかけます。
2)油揚げの3辺を切り開き、長方形になるように広げます。
3)広げた油揚げの長辺の端に三重なばなを置いてぐるっと巻き、巻き終わり部分を爪楊枝で留めます。
4)鍋に酒、みりん、麺つゆを煮立てて、油揚げ巻きを入れて弱火で煮含めます。
5)全体に味が馴染んだら油揚げ巻きをまな板に取り出して爪楊枝を外し、4等分に切り分けて器に盛り付けます。

こってりした味わいの味噌炒めも、なばなを入れることで彩りや栄養がプラスされ、少し軽めの食感に仕上がります。
1)フライパンで豚肉の細切れを適量炒め、別容器に取り出します。
2)タマネギとシイタケを炒めたら、3センチぐらいに切った三重なばな、1の豚肉を加えて、甘味噌(既製品または自作)で味付けします。
3)溶き卵を回しかけて炒め合わせたらできあがり。
※甘味噌を自作する場合は、事前にお好みの味噌とさとう、酒、みりんを混ぜ合わせておきます。こってり感を強くしたい時はおろしニンニクを加えたり、少しすっきりとした味にしたい時はしょうゆを少量加えると良いようです。

サッと塩ゆでして刻んだ三重なばなと塩昆布を、温かいご飯に混ぜたら出来上がりです。
分量はお好みで調整してください。
三重なばなの軽い歯応え、わずかなほろ苦さと甘みが、塩昆布のしっとりとしたうまみとよくなじんで、食が進みます。
おにぎりにしてもいいですね。

三重なばなは、洋風メニューにもよく合います。
1)パスタをゆで始めます。
2)フライパンに油をしいて、薄く切ったタマネギとベーコン、にんじんを炒めます。
3)ざくぎりにした三重なばなを加え、小麦粉を適量振りかけて炒め合わせます。
4)牛乳(または豆乳)を加えてよくかき混ぜ、少しとろみが出るまで煮たら、塩コショウで味を整えます。
5)ゆで上がったパスタを炒め合わせて、完成です。
粉チーズをたっぷりとかけて食べると、コクが増してより美味しくなります。
牛乳や豆乳は、コーヒー用のクリーミーパウダーなどでも代用できます。
栄養のバランスもよく、春らしい鮮やかな色合いで、お薦めです。
「三重なばな」の包装袋の裏面には「ゆがきかた」や「簡単おすすめメニュー」が紹介されているので、食材として初めて使う人も安心です。
また、「三重なばなのカラフルメニュー」として、一夜漬けやベーコン巻き、白和えなどが列記され、「あなたの工夫で、簡単にオリジナルメニューに変身します」と結ばれています。
実際に三重なばなを使って色々な料理を作ってみた感想は「下ごしらえも簡単(土が付いていないのでサッと洗うだけ)で、火の通りが早く、使いやすい」でした。
早春を実感できて、彩りがよくて栄養価も高いのに、自由な発想で簡単に使える、非常に重宝する野菜として認識を改めさせていただきました。
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